あの夏の続きを、今


部活に力を入れている私立高校では、実力のある人を先生がスカウトしに行くこともあるらしい、と風の噂で聞いたことはあった。


だけど、どうしてうちの県どころか全国的にもトップクラスの実力を誇る、あの有名な浜百合高校がわざわざここまで来て、私を勧誘しに来たのだろうか。


あまりにも唐突な出来事に、私は開いた口が塞がらない。


「実は私、先月のバンドフェスティバルでJ中学校の演奏をお聴きしたんです。その時のトランペットのソロを聴いて、私、非常に素晴らしいと思ったんですよ」

「え、あの時のですか?あの、あれは実は代奏でして、本来は私が吹くはずではなかったのですが」

「実は、私、寺沢先生と知り合いでして。私は時々こうして未来のうちの部の一員として相応しい人を探しているんですが、その時に寺沢先生に協力して頂くことも多いんです」

木村先生がそう言うと、後ろに立っていた寺沢先生が「実は大学時代の同級生でね。良くお互いの近況報告とかし合ったりするんだよ」と言って、二人顔を見合わせてわはは、と笑っていた。


「それで、寺沢先生からお話を聞いたんですが、なんとたった1日の練習であのソロを吹きこなしたそうで。曲に相応しい豊かな音。そしてあの堂々とした態度。とても代奏とは思えないほど素晴らしいものでした」

「は、はい……」

「それでですね、寺沢先生から皆さんの普段の練習の様子とかもお伺いして、広野さんは素晴らしい能力を秘めているはずだ、ぜひうちの部に来て頂きたい、と思ったんです」

「え、えぇ、はい……」


あまりにも訳が分からなすぎて、私は困惑したままただ木村先生の話を聞いていた。
< 305 / 467 >

この作品をシェア

pagetop