あの夏の続きを、今


次々に話しかけてくる部員たちの相手をしながらふと横を向くと、ホワイトボードに貼ってある浜百合高校の定演のチラシが目に入った。


それを見て、先程もらったチケットのことを思い出した。


「あ、そういえば、浜百合の定演のチケットタダで2枚も貰っちゃったんだけど、誰かいらない?」

「え、マジ!?」

「あの浜百合の定演をタダで見れるの!?」

「結構高いし、コンビニで発券とか指定席とかめちゃくちゃ本格的なのあるやつでしょあれ」

「はいはーい!私欲しい!」

「待って、うちも欲しい!」

「欲しい人ジャンケンね!」


そうして、結局ジャンケンに勝ったカリンがチケットを手にすることになった。


「やった!今週末だよね、志帆、一緒に行こうね!楽しみ!」

「うん!」

「じゃ、そろそろ練習戻ろっか」

「はーい」


部員たちはそれぞれ楽器を持って、各自の練習場所へと散っていった。



────浜百合高校、か。


いつもの体育館横へと向かいながら、私は考える。


座奏とマーチングの両方で全国的にもトップクラスの実力と知名度を誇る浜百合高校吹奏楽部。


その一員になれるなんて、吹奏楽をやっている人にとっては夢のような名誉だ。


全国大会に出たいという思いは大いにある。


────だけど。


私は東神高校に行きたいのだ。


だって……東神に行けば……私の大好きな、松本先輩とまた一緒に演奏できるんだから。


高校生になっても。松本先輩と会えるんだから。


もし、浜百合に行くなら、ここから通うには遠過ぎるから寮に住むことになる。


もしそうなったら────




────松本先輩とは、会えなくなってしまう。





…………そんなの、嫌だよ。




私は、高校生になっても、先輩に会うつもりでいたのに。

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