あの夏の続きを、今


その後、パートメンバーはそれぞれ基礎練習をしてから、また朝と同じように、先輩と1年生の一対一の練習に入る。


松本先輩が私、アカリ先輩がカリンの所へ行く。────この一対一練習ではいつの間にか、松本先輩と私、アカリ先輩とカリン、というペアが定着して、ずっとこの組み合わせでやるようになっている。


私の側にやってきた松本先輩が、「じゃあ、今日は今まで教えた音の復習をしてから、『ラ』の音を教えるよー」と言ったので、私は視線を持ち上げて松本先輩の顔を見ながら返事をした。


「じゃあ、メトロノームを60に合わせて……『ド』から『ソ』まで、順番にロングトーンしてみよう。……あ、大丈夫だよそんなに緊張しなくても。僕が先に4拍お手本を吹くから、その後に続いて8拍伸ばしてみようか」

「はいっ」


そう言うと松本先輩は私のメトロノームを鳴らし、「じゃあ、『ド』から行くよー」と言うと、すっと息を吸い、音を出す。


先輩の吹く「ド」の音が、決してブレることのない一本の綺麗な線となって伸びていく。そして、向かい側の壁に反射して辺りに響き渡る。


私はそれに続くように大きく息を吸う。


隣にいる先輩の凛とした佇まいに、いつか私がそうなりたいと願う自分自身の姿を重ね合わせるように、私は先輩の音の余韻に自分の音を重ねる。


ふらふらと揺れるチューナーの針を動かせまいとするように、息を吹き込む。


絶対に、先輩みたいに上手くなるんだ────そう思いながら。
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