あの夏の続きを、今
シンフォニックステージ、ポップスステージ、マーチングステージ。
3時間にも渡る、曲も演出も盛りだくさんのステージが終わり、客が帰り始めると、ロビーは再びたくさんの人で床が見えないほどに埋めつくされる。
「いやー、すごかったねー、カリン」
「あんなことできるなんて、さすが浜百合って感じ!志帆、どう?行きたくなった?」
「う、うーん、行ってみたいとは思うけど、その、遠いし、寮に入らなきゃいけないし、みんなと離れ離れになっちゃうから、そのへんはまだちょっと怖いというか……迷ってる」
「そうなんだ、でも確か私立の出願って秋頃だったっけ?まだ焦るような時じゃないし、ゆっくり決めればいいと思うよ」
カリンと話しながらホールを出て、人混みに紛れながら外に向かっていると、ふと遠くの方に見覚えのある人影を見つけた。
「あっ」
「ん?何?」
────松本先輩だ。
確かに、あの人は、間違いなく松本先輩だ。
今日の演奏会、先輩も聴きに来ていたんだ。
胸が、とくん、と跳ねる。
だが────
「いや、やっぱりなんでもない。行こう、カリン」
私は思わず目を逸らしてしまう。
────あれって。
もう一度、カリンに気付かれないように、松本先輩のいる方をちらりと見る。
────女の子だ。私の知らない。
東神高校の制服を着た松本先輩の隣には、同じく東神高校の制服を着た、見たことのない女子がいた。
二人で楽しそうに、何か話している。
────あれは誰?
気になったけど、深く考えてはいけないような気がした。
忘れなければいけないような気がした。
現実を見てはいけないような気がした。
私はもう一度視線を逸らして、出口の方へと歩き出す。
認めたくない現実が、視界に入らないように。
湧き上がってくる焦りと嫌な予感を、必死に押し潰しながら。
もう一度振り返りたくなる気持ちを必死に抑えながら、私はカリンと共にホールの建物を後にした。