あの夏の続きを、今


西棟の1階にある昇降口を出て、教室のある中央棟へ向かいながら、リサは話を続ける。


「そういえば志帆は東神に行きたいって行ってたけど、東神には行かないことにしたの?」

「いや、まだ迷ってる。だって浜百合ってめちゃくちゃ遠いから寮に入るのは確定で、そうなると地元離れることになる…つまり、松本先輩に会えなくなっちゃうの」

「なるほど〜」

「でも、吹奏楽をもっと頑張りたい、全国大会に出たいって思いもあるから、なかなか決められなくて、ずっと悩んでて」

「まあ、まだ4月だし、そんなに焦ることないんじゃないの?」

「確かにそうだね、ところで………」

「ん?」

「いや、やっぱりなんでもない」


私は浜百合高校の定演で見た、あの松本先輩を思い出した。


────だけど、思い出してはいけないような気がして、黙り込んでしまった。


────分かってる。私が都合のいい現実だけ見ようとしているのは。


だけど、ほんの少しでも、自分の中に可能性を残しておきたかった。


願ったものが無駄だったなんて、認めたくはなかった。
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