あの夏の続きを、今
B組の教室は3階、D組の教室は1階にあるので、中央棟の階段の下まで来たところで私はリサと別れ、D組の教室に入る。
私の席の一つ後ろの席から、セイジが「おう、志帆、同じクラスじゃんか。よろしくな」と言ってきたので、「よろしくも何も、もうよーく知ってるじゃん」と返した。
「今年は担任が寺沢じゃなくてほんとに良かった」とセイジが呟く。
「去年はどうだった?」
「もう、音楽の時間と学活とかの時間の合計で10冊ぐらいは授業中に読んでた漫画取り上げられたし、寝てたらめっちゃ怒られたし。今年は安心してそういうことできるなー」
「だから授業中に寝たり漫画読んだりするのやめなってば」
セイジは「あー、わかったわかった、うるさい」と言いながら両手で耳を塞ぐ仕草をする。
その時、「あっ、志帆だ、おはよう〜!」という声が後ろから聞こえてきた。
振り返ると、私と同じ吹奏楽部員で、打楽器担当の、ハヅキこと村山 葉月(むらやま はづき)がいた。
「あっ、ハヅキ、おはよう〜」
「このクラスで吹奏楽部員、うちと志帆だけだから、今年は志帆に色々とお世話になりそう!よろしくっ!」
そう言ってハヅキは笑顔で私の手を握った。
「うん!よろしくね!」
今まで私は、カリン以外の吹奏楽部の同級生とは普通に話すことはあったが、それほど親しい付き合いはなかった。
だから、ハヅキにこんな風に親しげに話しかけられて、少し嬉しかった。
私は自分の席に座り、窓の外をぼんやり眺める。
松本先輩と初めて出会った時は、私は1年生、先輩は3年生だったのに────今や私がその「3年生」になっている。
もう、あれから、だいぶ長い時間が過ぎていったんだな。
そして、コンクールの地区大会まであと4ヵ月を切った。
どこまで勝ち進めるかは分からないけど、いずれにせよ、引退の時は確実に迫って来ている。
もう、吹奏楽部員としての「終わり」の日も近づいて来ているんだな────
そう考えると、なんだか切なくなってきた。