あの夏の続きを、今
「ド」から「ソ」まで一通り吹き終えたら、次は新しい音の練習だ。
「じゃあ、『ラ』の音を教えるよ。運指はこう………そうそう、『ミ』の音と同じだよ。
『ソ』の音を出すのと同じ要領で、息のスピードを上げて、高い音を出すんだよ。じゃあ、早速吹いてみようか。自分のタイミングで入って」
「はいっ」
私は大きく息を吸い、そして楽器に息を吹き込む────出たのは『ミ』の音。失敗だ。
もう一度息を吸い、しっかりと吹き込む────今度はちゃんと「ラ」の音になった。もっとも、チューナーの針は真ん中からは程遠い場所でふらふらと揺れていたけれど。
「おっ、さすがだね!じゃあ今度は、音程も意識しながら吹いてみよう。僕が吹くから、それに合わせて」
「はいっ」
私が返事をすると、松本先輩は難なく「ラ」の音を出してみせた。チューナーの針は真ん中を指したまま、少しも動く気配を見せない。
私もその音に自分の音を重ねる。
まだ合ってない。もう少し低く、このあたりかな………
やがて、松本先輩が楽器を下ろしたので、私も音を出すのをやめる。
私は既に息が上がっていた。トランペットは、高い音になるほど音を出すのが難しく、息も苦しくなってくる。
けれど、いつもあんなに高い音を吹いているにもかかわらず、松本先輩には疲れの色は少しも見えない。さすがだ。
松本先輩は私の方を見ながら言う。
「すごく上手いじゃん、広野さん!このまま『シ』の音もやってみようか」
「えっ……あ、ありがとうございます!」