あの夏の続きを、今
「やめっ」
まただ。2小節目が終わったところで、また寺沢先生に止められた。
「16分音符の動きの人、勢いが足りないって、何度言ったらわかるんだ?
特にトランペットの1番。君たちが主役なんだから、君たちがはっきりと音を出して皆を引っ張ってくれないと困るんだよ。
もっとタンギングをしっかり練習して、こう、輪郭のはっきりした音を出してくれないかなぁ?
基礎基本ができているか、っていうのは、こういう所に確実に現れてくるんだよ」
マーチで何より大切なのは基礎基本だ。寺沢先生は、いつもそう言っている。
曲の構造がシンプルなマーチだからこそ、基礎がしっかり出来ているかどうかが演奏に忠実に現れる。審査員にもそういう所をチェックされるのだという。
「じゃあ、最初から通していくぞ」
寺沢先生がもう一度、指揮棒を振り始めた。
私はカリンとアズサちゃんの吹く音に合わせて、ほんの少し音量を絞りつつ、窓から見えるあの雲を目指して音を飛ばす。
そして、曲はどんどん進んでいき、終盤に差しかかる。
シンバルの一打とともに、トランペットのソロが始まる────カリンのソロだ。
────ラーラーラーーラー、たったったったーん、パパパーン!
まだ少し、音を出すことを怖がっているな、と感じられるような雰囲気は残るが、それでも十分に綺麗な音だと、私は思う。