あの夏の続きを、今
私が返事をすると、松本先輩はちらっと腕時計を見てから、「もうこんな時間…」と言って自転車にまたがった。もう、帰ってしまうのか。
「じゃあ、コンクール、頑張ってな!初めてのA部門、いい結果期待してるよ!」
「ありがとうございます!」
「うん!きっとうまくいくって、信じてるよ!……広野さんは、一人じゃないから!」
「えっ……どういうことですか?」
突然飛び出してきたその言葉に私は驚いて、思わずこう聞きながら先輩の方を見つめた。
────先輩のその表情が、どこか寂しげに見えたような気がするのは、気のせい……なのかな…………?
「広野さんが入る前は、パートの人数は今よりずっと少なかったから、一人一人にかかってくる責任感ってのはすごく重かったし……それにあの後……
────まあ、いいや。とにかく、広野さんには、山内さんがいるし、僕のいた頃よりもずっとたくさんの後輩がいるし……協力しあえる仲間がいるってことは、とっても素敵なことだと、僕は思うんだ。
広野さんたちは、そんな仲間たちに恵まれているから、きっと何があっても大丈夫だよ」
先輩はいつの間にか、私の方ではなく、どこか遠くの方をぼんやりと眺めながら話していた。
どうして急にそんな話をし始めたのか、私には全く分からなかった。
「そうですか……先輩も、コンクール頑張ってくださいね!」
「うん!ありがと!じゃあね!」
そう言うと先輩は、横断歩道を渡り、交差点の向こうへと消えていった。