あの夏の続きを、今


その後、私は松本先輩に「シ」と「シ♭」の音を教えてもらい、さらに、さっき渡された楽譜の一部を吹いてみることになった。


「じゃあ、ここからここまで、一緒に吹いてみようか。テンポはゆっくりめにするから大丈夫だよ。あ、楽譜は読めるよね?」

「はい」

「じゃあ、このぐらいのテンポでやってみるよ」


そう言うと松本先輩は、楽譜の指差した部分のフレーズを、ゆっくりと吹いてみせる。


先輩の奏でる音の一つ一つが繋がっていき、一つのメロディーとなる。


たった4小節間なのに、そのメロディーは心に深く染み入ってくるような何かを感じる。


音楽を奏でるとは、こういうことなんだろうか。


「じゃあ、一緒に吹いてみよう」


私が松本先輩と一緒に、その部分のフレーズを何度も吹いていると、私たちがいる場所の目の前にある水道の周りに、たくさんの汗だくになったサッカー部員の男子たちが集まってきた。


そこで、水を飲んだり、互いに水をかけ合ってふざけたりしている。


「もう一回吹いてみようか?」と松本先輩が言ったので、私が楽器を構えたその瞬間、サッカー部員の一人が誰かに掛けようとした水が、私の方に向かって飛んできた。


「うわあっ!」


思わず目をつぶる。次に目を開けると、私の楽譜ファイルや楽器に水がかかっていた。


「だ、大丈夫!?」そう言って慌てているのは松本先輩だ。

「だ、大丈夫です!」

「あー、悪い!ごめんな!ほんとごめん!」と、サッカー部員たちが謝っている。

「い、いえ、大丈夫です」

「広野さん、ほんと大丈夫?楽譜濡れたりしてない?」と松本先輩。

「はい、ファイルは濡れてますけど、楽譜は大丈夫です」

「ここは危ないね。場所替わろうか。あっちの方に移動しよう」

「は、はいっ」
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