あの夏の続きを、今
「えー、じゃあイニシャルは?」とミホが聞いてくる。
「名字M、名前S」
「よーし、絶対当ててみせるよー!イニシャルS.M…名字がま行で、元1D………んーーと、C組の村上くん?」
「違う」
「B組の森下くん?」
「違う」
「このクラスの松井くん?」
「違う。っていうか、今挙げていってる人、みんな下の名前の頭文字Sじゃないよ」
「S.Mでしょ……んーーー………んーーーーーー………」
ミホは真剣に考え込んでいる。
10秒ほど経って、顔を上げて私の方を見てから、「もしかして…」と言う。
「そもそもこの学年に当てはまる人、いないよね?」
「私は知らないけど、そう思うならそれでいいんじゃないの?」
「志帆がそう言うなら、やっぱりそうだ!この学年の人じゃないんだ!」
「正解」
「よーーーっし!重大な手がかりつかめたぞーーっ!これで志帆の好きな人が誰か、だいぶ絞れてくるはず!」
「ちょ、ちょっと、ミホ、やめて!声が大きいってば!」
喜んでいるミホを私は必死で制する。
前にいるハヅキに聞かれたら困る………!!
だが────
もう遅かった。
ハヅキは後ろに振り向き、座席の背もたれから身を乗り出して、私とミホの方に向いて、言った。
「なになにー?志帆の好きな人の話ー?うちも気になるー!!聞きたいーーー!!」
「え!?……ちょ、ちょっと……」
「ね?教えてよー!志帆の好きな人が誰なのか!ミホにだけ言って、うちには教えないなんて無しだからね?」
「え………えー………っと………」
どうしよう。
どうしようどうしよう。
ハヅキにも、言わなければいけない状況になってしまった────
吹奏楽部員であるハヅキに、松本先輩のことが好きだと打ち明けたら、どんな反応が返ってくるだろうか。
あの時のカリンみたいな反応をするのだろうか。それとももっと馬鹿にされてしまうのだろうか。それとも────
とにかく、これ以上嘘をつくことはもう出来ないし、苦しい。
ここは、もう、言ってしまうしかないのか。