あの夏の続きを、今
私が戸惑っていると、真っ先にハルカが口を開いた。
「うち、分かるよ!確信してる!志帆の好きな人は……福原くんでしょ!」
「いや、全然違うからっ!もうセイジのことは聞き飽きたよ〜」
私が全力で否定すると、ハルカとアキはがっかりしたような顔で「えー?志帆は絶対福原くんだと思ったのにー。違うのー?」と言っている。
私が2人に向かって何か答えようとする前に、ハヅキとミホが話し始めた。
「残念ながら、福原くんではないんだなー」
「ハルカもアキもその人のことは絶対知ってるから、分かるはずだよ!当ててみて!」
ハルカとアキが、それに「わかった!」「志帆の好きな人当てクイズ、受けて立つよ!」と答えた。
そうして、4人は「志帆の好きな人当てクイズ」で勝手に盛り上がり始めた。
私は少し離れて4人を呆然と眺めていると、カリンが私の元へと近寄って来て、言った。
「あの4人は4人の世界で盛り上がっちゃってるからとりあえず置いとくとして、カリンにこっそり教えてよー!志帆の好きな人!カリン、知りたいの!」
まるで好奇心旺盛な小さな子供のように、カリンは目を輝かせて、私の顔を正面から見つめる。
その瞳に、他意は一切感じられない。
私が嘘をついていたことには、まだ気付いていないようだ。
カリンにはやっぱり不思議な力があると思う。
人の素直な気持ちを引き出すその力。
カリンのその素直な瞳を見ていると、もう、私は二度とカリンに嘘をつくことなんてできない、つきたくない、そう思った。
松本先輩のことを好きという事実はバレてしまっても、仮にあの時カリンに嘘をついた日から後に好きになったということにしておけば、嘘をついたことはバレない。
けれど────それは嘘を隠すために、新たな嘘を作り出すことになってしまう。
そんなことをするぐらいなら、もう、思い切って、全て本当のことを打ち明けてしまおう。
────カリンに、素直に謝ろう。
カリンとの間に出来てしまった、この小さな小さな溝が、取り返しのつかない深さになってしまう前に。