あの夏の続きを、今
私はカリンに正面から向き合った。
「あのね、カリン……………
…………ごめんなさいっっっ!!」
「え、し、志帆!?どうしたの!?」
深々と頭を下げた私を前に、カリンは何が起きたか全く分からない様子で、慌てふためいている。
私は大きく息を吸って、そしてはっきりと言葉を発した────「じんじん」のメロディーの最初の音を吹き始める時のように。
「あのね、私────カリンに、嘘をついていたの。本当にごめんなさい」
「え、志帆が、いつ?……ごめん、カリン全然覚えてないかも」
カリンは何が起きているのか、全く理解できていないようだ。
「2年生の夏だったかな。私、カリンに、好きな人いるのかって聞かれて────私、本当はその時から好きな人いたのに、嘘ついたんだ……いないって」
「そ、そんなことあったっけ?」
「うん、あった」
「ごめん、カリン、完全に忘却してた……」
「謝るのは私の方だよ。本当にごめんなさい。怒っていいから」
「カリン、怒ったりしないよ!全然大丈夫だよ〜」
カリンは、自分が覚えていないことに対して謝られることが若干腑に落ちていないような様子にも見えた。
だが、次の瞬間、カリンはまた、あのキラキラした純粋な瞳を私の方に向けてくる。
「で?で?それで??志帆の好きな人って、誰なのー??教えて??」
「えっと……カリン、もう分かるんじゃないの?」
「え????」
「1回、ちらっと話したことあるから」
「え?あったっけ??」
「覚えてない?」
「…全然、心当たりないよー」
「ほんとに覚えてない?私が、その人を好きになったのかも、みたいな事を1回カリンに相談したら、カリン、『絶対ない』って、ものすごく否定したから……」
「えーー!?カリン、そんなこと言ったっけーー!?」
「うん、言った。……少し言い訳させてもらうと、私が嘘をついたのは、あの時カリンに否定されたから、これは誰にも言えない恋、ありえない恋なんだな、って思って…」