あの夏の続きを、今
やがて、会場の建物が視界に入ってきた。
青く澄んだ空をバックに、そびえ立つ建物。
この中に、松本先輩がいる。
もうすぐここで、私の求めている音と出会える────
私とカリンは入り口の前に長く伸びている列に並ぶ。
列が少しずつ進んでいき、ドアの向こうに見覚えのあるロビーの風景が見えてくると、なんだかここが、私の辿り着くべき場所、夢の詰まった場所、特別な意味を持った場所に思えてきた。
半年に1回だけ、松本先輩の奏でる音を聴ける、私にとっての大切な場所。それがここなのだ。
今日の定演が終わると、次にここで東神高校吹奏楽部の演奏が聴けるのは、12月のクリスマスコンサートになるはずだ。
次も、またここに来たい────そう思いながら、私は列が進むのを待っていた。
ホールの入口の前まで来たところで、チケットを切ってもらい、パンフレットを受け取る。
「わぁ〜……もうすぐだね!楽しみ楽しみ〜!どこ座るー?」
そう言いながらカリンは、ホールの扉をくぐってどんどん先に進んでいく。
「あー、待ってよカリン!このへんまだ空いてるから、ここにしようよ!1階席の後ろのへんなら、ユーフォと同じくらいの目線の高さで見れるよー」
私が席に着くと、カリンもその隣に座った。
私はざわめくホールをゆっくりと見回す。
すっかり人で埋め尽くされた客席。「禁煙」と書かれた赤いライト。薄暗い隅っこの方でぼんやりと光る非常口のライト。まだ誰もいないステージに整然と並べられた、たくさんの椅子と打楽器。高い天井にざわざわと響いている、人々の話し声。
この光景の全てが、私の中で東神高校吹奏楽部の音と結びついている。
そして、松本先輩と結びついている。
私は高鳴る胸を押さえながら深呼吸した。
もうすぐ、ここで夢の時間、夢の演奏とまた出会えるんだ。
大好きな先輩の奏でる音を感じていられる、大切な時間が。