あの夏の続きを、今
「あっ!『たなばた』がある〜!」
隣でパンフレットを読んでいたカリンが、ふいに声を上げた。
「そうだよー、今年のコンクールの自由曲なんだって。しかもね……」
「しかも……?」
「中間部のあのソロ、松本先輩がやるんだってー!!」
「えぇーーー!ユーフォ初心者で2年生なのにーー!さすが先輩だねっ!」
それからカリンはまじまじと私の目を見つめながら、「よかったね、志帆!今日は最高の日だねっ!」と言ったので、私は急激に顔が熱くなってしまった。
「う、うん、そうだね……先輩の勇姿、しっかり目に焼き付けておかなきゃ!」
それからしばらくパンフレットを読みながら開演を待っていると、私たちの前の席に座っている、東神高校の制服を着た女子高生2人組が、パンフレットを見ながら何かを話し始めた。
「これ、コンクールの課題曲と自由曲の枠だよね。ってことは、今年は自由曲『たなばた』なのかー」
「なんかいつもあのサックスソロとかユーフォソロとか聞こえてくるなーって思ったら、そういうことだったのね」
────ユーフォソロ……
私の中の何かが、ぴくんっ、と反応した。
私はそっと2人の会話に聞き耳を立てる。会話の内容からして、この2人は吹奏楽経験者のようだ。
「ユーフォソロって、松本くんでしょ?なんか私、あの音、すごくいい音だなーって思ってた。何かに訴えかけてるような感じの」
────松本先輩のユーフォソロの話だ!
私は身を乗り出したくなる衝動を抑えて、その会話を注意深く聞いた。
「松本くんもそうだけど、マイのサックスもプロ級だよね!」
「あれは誰にも真似できないよねー!」
「最初のワンフレーズ聞いただけで、もうなんかうっとりしちゃう……あの音はたまらないよね〜」
その「マイ」という人が、『たなばた』のアルトサックスのソロを担当する人のことだろうか。
私はパンフレットの裏表紙の演奏者名簿を見た。サックスのところに、「難波 舞」という2年生がいる。
隣に書かれた出身校はK中学校。完全に、私の知らない人だ。
────だけど、「マイ」という名前を、私は前にもどこかで聞いたような気がする。
けれど、いつどこで聞いたのかまでは、どうしても思い出せなかった。