あの夏の続きを、今
楽器を片付け終えた後、ホワイトボードに貼られている「東神高等学校吹奏楽部 定期演奏会」と書かれたチラシを横目に見ながら、音楽室を出ようとしたとき、松本先輩に話しかけられた。
「あの、広野さんは、自分の楽器を買うことは、できるのかな?」
自分の楽器………
────パートによっては自分の楽器を買わなければいけないと、入部した時に聞いていた。だから、トランペットももしかしたら自分の楽器がいるかもしれないと思っていた。
両親にそのことを言ったら、「トランペットぐらい大丈夫だよ、入学祝いも兼ねてね」と、あっさりOKされたのだ。────
「はい、大丈夫です、多分、次の本番……吹奏楽祭?が終わってからになると思いますけど」
「おぉー、それは楽しみだね!今の学校の楽器で余ってるやつ、ボロボロの不良品ばっかりで、使いにくいでしょ」
「そうですね、時々、ピストンやチューニング菅が動かなくなったり」
「買ったら真っ先に見せてな!」
「もちろんです!」
「それじゃ、お疲れ様、また明日」
「はい!お疲れ様でしたー」
挨拶を終えてから、松本先輩に続いて音楽室を出る。
帰りに音楽室を出る時は、ドアの所から音楽室の中に向かって「ありがとうございました」と言うのが、この部の暗黙のルール。
オレンジ色に染まった音楽室に「ありがとうございました」と言ってから、階段を降りて、自転車置き場へと向かう。