あの夏の続きを、今
「しかも、松本くんがユーフォ始めたのは高校からで、マイがサックス始めたのは中2の途中らへんからなんだって!それまでは二人ともトランペットだったんだって」
「えぇーーー!?そうなのーーーー!?それで二人ともあの音!?凄すぎない!?」
「だよね!!」
「あ、そうそう、そういえばさー」
「何ー?」
私は引き続き耳を澄ませて、その人たちの会話を盗み聞きする。
「サックスっていつも4階の教室で練習してるよね」
「うん、あの辺でよく見かける」
「で、ユーフォとか低音が1階にいるよね」
「音楽室から近いからね」
「最近よく、4階のバルコニーでマイがソロの練習してると、1階の外で練習してる松本くんが、それに合わせてユーフォソロの音を被せるんだよね。で、綺麗なデュエットになるっていう」
「あれ?2人一緒に練習してるわけじゃないんだ!私てっきり、パート練習の部屋を抜けて2人でソロの練習してるのかと思ってた」
「そうなのよ。まるで、2人がテレパシーで繋がってるみたいに、お互いのソロの音でやりとりしてるの。1階と4階で。なんかロマンチックじゃない?本物の織姫と彦星みたい」
「ロマンチックってー。でも確かに、あの2人お似合いかもねー!」
────そこまで聞いたとき、私は全身が石になってしまったかのように動けなくなった。
…………お似合い?
松本先輩と…………その、「マイ」って人が?
「あの2人のソロの音、なんだか本当に言葉を交わしてるみたいだよね。音に気持ちがこもってて、本当に織姫と彦星が心を通わせてるような、素敵な音……たぶん本当にお互いのことを想ってないと、あんな音出せないんじゃないかなぁ?」
「あはは、実はあの2人、相思相愛だったりしてーー!」
それは明らかに冗談とわかる口調だった。それでも私は、身体が震え出すのを止められなかった。
────あの時と同じ気持ちだ。
浜百合高校の定演の会場で、私の知らない誰かといる松本先輩を見た時の、あの気持ち。