あの夏の続きを、今
松本先輩が私の知らない所で、そんな風にしていたなんて。
さっきの2人の言葉を何度も頭の中で繰り返しながら、あれは絶対冗談だよね、冗談であって欲しい、と思いつつ、必死に不安を抑え込む。
信じたくない。松本先輩が他の誰かを想っているだなんて。他の誰かのために音を奏でているだなんて。
私の知らない誰かを想う松本先輩の姿を想像してみる。胸の中に、もやもやとした何かが渦巻く。
嫌だ。そんなの嫌だ。
────あの時から決して思い出さないように、決して外に出てこないように、閉じ込めていた何かが、はっきりとした不安の感情になってこぼれ落ちていく。
私だけのために、とは言わない。けれど、私にも届くように、その音を奏でて欲しい。
先輩は、好きな人である以前に、「先輩」なんだから。
私は、先輩にとっての「後輩」であり、そして先輩を大切に想う人なんだから────
────ヴーーーーーッ………
開演のブザーが鳴ると同時に、会場を包み込んでいたざわめきは一気に収まった。
私も俯いていた顔をはっと上げて、ステージの方を見る。それと同時に、照明がカッと明るく輝く。
黒いジャケットのユニフォームに身を包んだ、私の何倍も大人っぽく見える部員たちが、並んでステージに入ってくる。
私は背筋を伸ばして、入ってくる人達の顔を一人一人、目を凝らして見た。
探し求めている人の顔はすぐに見つかった。
私の大好きな人のその姿。
眼鏡の奥のその瞳は、あの頃と変わらない優しさを湛えている。
その優しげな眼差しを、もう一度私に向けてくれることを、ずっとずっと願い続けている。
もう一度、その音を私の心へと重ねて欲しい。そう思っている。
だけど、もしもあの二人組の言っていたことが本当だとしたら────
もしもあの定演の日に感じた不安が現実になるなら────
もしかすると────
私のこの願いは……………………