あの夏の続きを、今
部員たちが椅子に座り、先生が入場してくると、一斉に拍手が起こる。
そして、指揮台に立った先生が指揮棒を構え────最初の曲が始まる。
縦も横も綺麗に揃った、美しく華やかなファンファーレ。
全国金賞の浜百合高校には及ばずとも、それでも県大会では金賞の常連校である東神高校の演奏。
中学生にはできないような、少し大人な雰囲気の美しい響きだ。
やがて、去年と同じように、ユニフォームではなく制服を来た一年生がステージに出てきて、前にずらりと並ぶ。そして、先輩たちの演奏に合わせて、歌を歌う。
去年はあの制服姿の部員の中に松本先輩がいたけれど、今は先輩はユニフォームを着て演奏している。
もう、あれから1年が過ぎたのか────
時が経つのは早い。
決断を下すべき時が来るのも、「運命の時」が来るのも、きっともうすぐなんだろう────
曲が終わると、司会の生徒がマイクを持ってステージに現れた。そして、先ほど演奏した曲の解説を終えると、次の2曲────コンクールで演奏する課題曲と自由曲の紹介に入る。
『続きまして、鹿島康奨作曲・マーチ「クローバー グラウンド」、酒井格作曲・「たなばた」をお送りします…………』
曲の解説を聞きながら、私は松本先輩の方をじっと見つめていた。だが、司会の人が「たなばた」の中間部のソロについて話し始めると、私の視線は自然とアルトサックスの方に向かった。
アルトサックスの2、3年生は合わせて3人いて、そのうち一人は男子だった。
あの2人が言っていた「マイ」という人が誰なのかは分からない。あの話が本当なのかも分からない。
けれど、そんな噂が立つというだけでも、私は気が気でなかった。