あの夏の続きを、今
やがて、司会の人がステージから出ていき、先生が再び指揮台に上ると、静かになったホールは緊張感に包まれる。
そして、張り詰めた空気を突いて響くのは、シンバルとトランペットの、明るいファンファーレ。
今年度の課題曲IV、マーチ「クローバー グラウンド」だ。
ファンファーレの後の第一主題の主役はアルトサックスだ。
音の縦だけでなく、息づかいや音の切り方まで、全てが美しく揃っていて、私は思わず息を呑んだ。
同じ人間とは思えないほどに、巧みに音を操り、聴く人の心を惹き付けている。
この学校はサックスが飛び抜けて一番上手いな、と思う。そして、サックスが主導権を握るこのマーチは、この人たちの良さを最大限に引き出しているな、と思う。
第一主題のポップスのようなはっきりとした音も、Trioからの静かで優しい音も、高校生とは思えないほどに洗練され、心がこもっていると感じる。
私はほんの少しの間、松本先輩のことも忘れてその美しいサックスの音に夢中になっていたが、そこにユーフォのオブリガートがそっと寄り添ってくると、私ははっと我に返って、松本先輩の方を見た。
サックスの音色に負けず劣らず美しい、優しく歌うようなユーフォの音色。
けれどむやみに主旋律と張り合ったり感情を主張させたりするような感じは全くなく、一歩引いた位置から、少し感情を抑えて、そっと主旋律に華を添えている。それがまたいっそう素晴らしい。
マーチの演奏が終わり、そのまま「たなばた」の演奏に入っていく間も、私はずっと松本先輩のほうを見つめ続けていた。
けれど、松本先輩の視線がこちらへ向かう気配は全くない。
先輩は、私がここにいることに気づいているのだろうか。
ここに、誰よりも先輩の奏でる音を待っている存在がいることに────