あの夏の続きを、今
二人が交互に掛け合うように奏でられていた音は、やがてぴったりと重なり合い、一つのハーモニーとなる。
互いを想う心が、一つになるように────
────その音を聴いて、何故だか急に、松本先輩との間の距離が、とてつもなく遠くなってしまったような感覚を覚えた。
なぜだか分からない。
けれど、私と先輩の間に、目には見えないけれど越えようのない分厚く高い壁があるのを、はっきりと感じてしまった。そんな気がする。
二人のソロは終わり、多くの楽器たちが、一年に一度の特別な夜の物語を奏で始める。
それぞれの楽器の音はホールを包み込み、私の心の奥底へと優しく響いてくる。
だけど────松本先輩の音は、何かが違うような気がしたのだ。
アルトサックスのソロの音は、「彦星」のユーフォと互いの音を聞き合い、そして相手に優しく語りかけるようにしながら、けれど同時に、私たち観客に向けても、その素晴らしい音を聴かせてくれていると感じた。
けれど────松本先輩のユーフォの音は、そうではなかったような気がしてならないのだ。
私が期待していた音と、何かが違う。
松本先輩の音は完璧と言えるほど素晴らしかった。けれどその音は、何故か私の心の奥深くまで、染み入ってこないのだ。