あの夏の続きを、今


その音は、私の知っている松本先輩の音────いや、私が心の中で思い描いていた松本先輩の音とは、随分かけ離れている。


今、松本先輩が奏でている音は、中学生の頃よりもずっと上手くなっていて────けれど、なぜだか、ずっと遠く感じられてしまうのだ。


松本先輩と私との間に、超えることのできない隔たりがあるような────そんな気がしてしまったのだ。


どうしてだか、分からない。


けれど、確かに感じてしまったのだ。


ステージの上にいる高校生の松本先輩と、客席にいる中学生の私。その距離感を。


ふと気がつくと、私の両方の目には涙が溜まりつつあった。


私の心の中にはいつだって松本先輩がいた。先輩のことを思わない日はなかった。


けれど、あのステージの上にいる先輩は、高校という、私とは違う世界を生きている。


私の知らない場所で、私の知らない人といる。


私よりもずっとたくさんの時間を、私以外の人と過ごしている。


────そんな当たり前のことに、私はずっと気付かずにいた。


けれど、今になって初めて、私はその事実を強く強く意識させられてしまった。


瞬きをすると、涙でステージの上の光景が大きく歪む。


涙を拭き、もう一度松本先輩の方を見る────ソロを吹き終えたその姿を。


高校のユニフォームを着て、中学時代とは違う楽器を持っているその姿。それが、あの頃と変わらない部分よりも、変わってしまった部分を強く強く私に意識させる。
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