あの夏の続きを、今


外は相変わらず眩しい日差しに照らされていて、私もカリンも思わず目を細める。


「カリン、私、今回ので確信したよ。

私が先輩のことを想っているように、先輩が私のことを想ってくれることは、きっとないんだって。

先輩にとって私は、充実した高校生活に押し潰された、記憶の片隅の忘れられた存在でしかないんだよ、きっと。私はそう思う。

私が想いを伝えても────きっと、だめなんだと思う」


カリンは黙って聞いていた。何も言わなかった。


10秒くらいそのまま二人とも沈黙の中で立ち止まっていたが、ようやくカリンが口を開いた。


「でも、志帆………告白してみなきゃ、先輩の本当の気持ちは分かんないでしょ?」


私は少し考えてから答えた。


「うん……高校はどこに行くことになろうと、いずれ必ず告白はするつもり。この気持ちは伝えたいから。

……でも………その時はたぶん、もう二度と会えなくなってしまうよ、きっと。

全てが、終わってしまう」


カリンは私の肩に手をそっと乗せて、「あんまり暗くなっちゃだめだよ、志帆。志帆らしくないよ!」と言った。


「うん、ありがとうカリン」

「そろそろ帰ろっか」

「だね」


私とカリンは並んで歩いて、会場の建物を後にする。


初夏の日差しと青く澄んだ空は、夏の始まりと同時に、夏の終わりも少しずつ確実に近づいていることを私に知らしめている。


この夏が終わる頃には────


浜百合高校に行くと決めていたら、コンクールが終わって、私は先輩に想いを伝えているだろう。


その時には、もうきっと────


一方、東神高校に行けば、またここで夏を迎えられる。


けれど、いずれはやって来てしまうのだ​────「終わり」の時が。


私はふと後ろを振り返る。そこにはS市民文化会館の建物が、青い空をバックにそびえ立っている。


次の12月にはこの場所で、クリスマスコンサートが開かれる。


けれど、私はもしかしたら、もうそれを聞きに行くことはできないかもしれない────


これが最後かもしれない────


私はもう二度と来ることができないかもしれないこの場所を何度も何度も振り返りながら、カリンの後について少しずつ駅の方向へと歩いていった。

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