あの夏の続きを、今


やがて、曲も終わりに近づく。


私の左隣で1stのメロディーを吹いているアズサちゃんは、既にバテてきているのか、音がだんだんと弱くなってきている。


アズサちゃんは2曲続けて1stを吹けるのだろうか。少し不安になってくる。


そして、カリンのソロの部分になった。


────ラーラーラーーラー、たったったったーん、パパパーン!!


カリンのソロの音も、春に比べたら随分良くなっている。────だがそれでも、どうしても音を出すことを怖がっているな、という印象が拭いきれていないような気がする。


最後まで曲が終わると、寺沢先生が言う。


「山内、ソロの部分、もう一回吹いてみてくれないか?……あ、伴奏の人も一緒に」


そう言って指揮棒を構える先生。


「はいっ」と返事をするカリンの声が、心なしか震えている気がする。


プレッシャーに弱いカリンのことだから、きっと、名指しで吹かされるのは相当怖いのだろう。


案の定、カリンはソロの最後の音を見事に外してしまった。


怒られる、と思っているのだろう、カリンはすっかり怯えてしまっている。


「うーーーーん……」


先生はまたしても難しい顔をして考え込んでいる。


あまりにも長いこと、先生が何も言葉を発することなく考えているので、次にどんな言葉が飛び出すのか、カリン以外の部員たちも戦々恐々としていた。


────だが、しばらく経ってようやく開いた先生の口からは、演奏の指示は何も出てこなかった。


「一旦休憩。10分後に自由曲の合奏始めるから、準備しとけよ」


それだけ言うと、椅子から立ち上がり、音楽室を出ていった。


────その背中を、部員たちは皆、きょとんとした顔でしばらく見つめていた。
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