あの夏の続きを、今
照りつける日差しの下、自転車を漕いで長い長い坂道を登っていく。
たくさん練習して疲れているからか、いつもは坂道の中腹辺りで自転車を降りて歩き始めるのだが、今日はかなり下の方で限界を感じて歩き始めた。
青い葉を茂らせた桜並木の下、木漏れ日を浴びながらのんびりと自転車を押して歩いていく。
────その時だった。
ふいに、私の後ろの方から自転車が近づいてくる音がした。
そして、一台の自転車が、立ち漕ぎで坂道を登りながら、私の横を通り過ぎていく。
日差しに映える真っ白な半袖のシャツを着たその男の人の背中をぼんやりと眺め、暑さと眩しい日差しと疲れとで半ば停止しかけた思考を動かす────
────!!!!
1秒くらい経ってから、私は事の重大さに気がついた。
あれは────松本先輩だ!
私の心臓が、大きく跳び上がる。
あれは間違いなく、東神高校の制服。
あの後ろ姿は間違いなく、松本先輩だ。
自転車を漕ぎながら遠ざかっていく先輩の姿をしっかりと見ながら、私は小走りになって坂道を駆け上がっていく。
肩幅の広い背中はすぐに、交差点の曲がり角に消えて、見えなくなってしまった。
私は再び、ゆっくりの歩調で坂道を登っていく。
松本先輩の姿を見ることができた────それは嬉しい。
だけど、松本先輩は、私に話しかけることなく、まるで何も気付いていないかのように通り過ぎてしまった。
背中に楽器ケースを背負っているから、私だと分からないはずはないのに。
ほんの少しだけ、寂しくなる。