あの夏の続きを、今
────思えば、先輩が卒業してから、私と松本先輩が話す時は、必ず私の方から声をかけている。
卒業してから、というか、引退してから、松本先輩の方から声をかけてくれたことは────
記憶を辿ってみる。だが、記憶の中で私と話している松本先輩はどれも、私に話しかけられた松本先輩ばかりだ。
松本先輩から声をかけられたことは────一度もない。……たぶん。
私から話しかけなければ、松本先輩は決して振り向いてはくれない。
やっぱり、私が何度も何度も松本先輩と話したがっていることは、先輩にとって迷惑なんだろうか。
好きでもない人に、帰り道で突然後ろからやってきて話しかけられたりするのは、やはり迷惑なのかもしれない。
私が好きでもない人から同じことをされたら、どんな気持ちになるだろう、と想像しようとした、その時だった。
────チリンチリンチリリン!!
後ろからベルを何度も鳴らしながら近づいてくる自転車の音。
うるさいな、誰が誰に向かって鳴らしてるんだろう、と思いながら振り向くと────
「よっ、志帆ー!」
「あっ、セイジじゃん!」
なんとそこには、私服姿で自転車に跨ったセイジがいた。
セイジは私の隣に並ぶと、自転車から降りて私と同じように自転車を押しながら、私に歩調を合わせて歩く。
「セイジ、何してたの?」
「図書館行って勉強してた」
「えぇーーーー!?セイジが勉強ーーー!?嘘だぁ、絶対漫画読んでただけでしょ」
「まあ、多少はな」
「ほら、やっぱり」
「でも、勉強もしたからな!褒めてくれ!」
「はいはい、よくがんばってますねー」
「まあ、今の俺の成績やばすぎて、志望校に全然届きそうにないからなー。家だとなぜか集中できないから、こうやって図書館行くことにしたわけ」
「そうなの………セイジが勉強ねぇ……なんだか想像つかないよ。地球滅亡の前触れとかじゃないよねぇ」
「うるせーなー!」
私たち二人は長いこと会話を交わしながら、交差点を通り過ぎ、家の方向へと一緒に向かって行く。