あの夏の続きを、今
幼なじみの境界線
【2016年 7月下旬】
あっという間に期末テストが終わり、終業式も終わり、夏休みに入った。
地区大会まであと少しとなり、吹奏楽部員たちはいっそう練習に力を入れている。
そんな中、今私は何をしているかというと────
「ほら、ここに補助線を引けば、三角形ができるでしょ?後はここの長さを三平方の定理で出せば、面積が出せるの」
「え?待てよ、ここの長さが分かったところでどうやって面積を」
「ここの長方形の面積から、ここの面積を引くの!ってかセイジ、授業でも似たような問題やったのに、覚えてないのー?」
「そんな1回やっただけで覚えれないだろー!志帆なら頭いいから楽勝だろうけどさー」
────私は今、学校の図書室で、セイジに勉強を教えている。
今日は3年生の三者面談がある日で、セイジは今日の午後に面談の予定が入っている。だからそれが始まるまで、図書室で時間を潰すらしい。
私は今日はお弁当持参の一日練習の日なので、お弁当を食べる時間になったら少し抜けてきて勉強を教えてほしい、と頼まれたのだ。
私は数学の宿題に苦戦するセイジの隣でお弁当を食べつつ、問題を教える。
「よっしゃ、分かった。じゃあ次はこの問題の解説頼む」
「えー、いきなり?まずは自分で一回解いてみなよー」
「ケチだなー」
不満をこぼしつつも問題を解き始めるセイジを横目に、私は卵焼きを口に入れる。
図書室の中には私たち二人の他には誰もいない。
私がお弁当を食べる音と、セイジがシャーペンを動かす音だけが、静かな空間に響く。
こうやって二人きりで部屋の中で隣に座っていることに多少の違和感を感じながらも、私はセイジが正解からは程遠い計算式を描いている様子を、卵焼きを頬張りつつ眺めていた。