あの夏の続きを、今


「もうギブアップ。教えてくれよー」

「分かった、ここの連立方程式はね……」


セイジに数学を教えながら、私は頭の片隅で別のことを考えていた。


勉強を教えるのは別に構わない。けれど何だろう、この、胸に引っかかるような違和感は。


最近、セイジと一緒にいることが増えただけでなく、何故だかわからないけれど、セイジといると妙な違和感を覚えることがある。


その違和感が、セイジと一緒にいるという状況に対してなのか、セイジそのものに対してなのかは分からないけれど。


もしかしたら両方なのかもしれない。


最近、セイジは前ほど口が悪くなくなったというか、角が取れたというか、そんな気がする。


セイジそのものも、セイジとの関係も、なんだか段々と変わってきている気がする────


そう思いながら、私は空っぽになったお弁当箱の蓋を閉じ、ブルーの保冷バッグにしまう。


腕時計に目をやると、パート練習の始まる10分ほど前だ。


「そろそろ行かなきゃいけない時間だ…じゃ、セイジ、今日はここまでね」


私がそう言って席を立つと、セイジは「分かった、また教えてくれよなー」と言ってきた。


「そんなに頻繁にはできないから、部活引退してからね」


私はそう言って図書室を出た。


冷房の効いていた図書室から一歩外に出た瞬間、茹だるような夏の暑さと日差し、蝉の鳴き声が一気に私に降りかかってくる。


────いよいよ夏本番だ。


私は「じんじん」を頭の中で再生しつつ、音楽室へと戻る。
< 389 / 467 >

この作品をシェア

pagetop