あの夏の続きを、今
「もうギブアップ。教えてくれよー」
「分かった、ここの連立方程式はね……」
セイジに数学を教えながら、私は頭の片隅で別のことを考えていた。
勉強を教えるのは別に構わない。けれど何だろう、この、胸に引っかかるような違和感は。
最近、セイジと一緒にいることが増えただけでなく、何故だかわからないけれど、セイジといると妙な違和感を覚えることがある。
その違和感が、セイジと一緒にいるという状況に対してなのか、セイジそのものに対してなのかは分からないけれど。
もしかしたら両方なのかもしれない。
最近、セイジは前ほど口が悪くなくなったというか、角が取れたというか、そんな気がする。
セイジそのものも、セイジとの関係も、なんだか段々と変わってきている気がする────
そう思いながら、私は空っぽになったお弁当箱の蓋を閉じ、ブルーの保冷バッグにしまう。
腕時計に目をやると、パート練習の始まる10分ほど前だ。
「そろそろ行かなきゃいけない時間だ…じゃ、セイジ、今日はここまでね」
私がそう言って席を立つと、セイジは「分かった、また教えてくれよなー」と言ってきた。
「そんなに頻繁にはできないから、部活引退してからね」
私はそう言って図書室を出た。
冷房の効いていた図書室から一歩外に出た瞬間、茹だるような夏の暑さと日差し、蝉の鳴き声が一気に私に降りかかってくる。
────いよいよ夏本番だ。
私は「じんじん」を頭の中で再生しつつ、音楽室へと戻る。