あの夏の続きを、今
パート練習が終わった後は、合奏のため音楽室に移動する。
寺沢先生が来るのを待つ間、それぞれの部員たちは自分の席で音出しをしている。
私はソロを何度も練習しながら、ホワイトボードの方に目をやった。
『地区大会まであと 7 日!』
「7」の字だけ、ホワイトボードからはみ出しそうなほどの勢いの大きな太字で書かれている。
さらに、その周りには、「目指せ金賞!」「絶対地区大会突破!」といった字も書かれている。
初めてのA部門で、どこまで進めるかは全く分からないが、少なくとも地区大会は絶対に突破したい、というのが部員たちの思いだ。
本番まであと一週間。もしも地区大会を突破できなければ、私たち3年生はそのまま引退してしまう。
────絶対にここで終わらせるわけにはいかない。
そんな強い思いを胸に抱きながら、私は何度も何度も、ソロの部分を練習する。
────ラーラーラーーラー、たったったったーん、パパパーン!!
音は外さなかった。けれど、最後の音が、少し遅れてしまったようか気がする。
私は「完璧」と言えるような、納得できるような音になるまで、私は繰り返しその部分を吹いていた。
────私の心の中では、もう浜百合高校を受けることに決める覚悟はほぼできていた。
練習を重ねるごとに高まる吹奏楽への思い。高度な演奏への憧れ。────あるいは、叶わない恋への諦め。終わりを告げ、別れを受け入れる覚悟。
心の中で少しずつ積み重なっていくそれらの思いが、新たな世界へ踏み出す最初の一歩を後押ししようとしている。
きっと、このまま私の気持ちが変わるような大きな出来事がなければ、私は浜百合高校に行くことを選んでいるだろう。
────だから、コンクールが終わったら、松本先輩に想いを伝えなければいけない。
コンクールでいい結果を残して、笑顔で報告して────そして、この気持ちを伝える。
そして────その瞬間が、私と先輩の、「永遠の別れ」になるんだ、きっと。
この恋が叶うことはきっとないだろう。だから、想いを伝えてしまえば、もう二度と松本先輩とは会えなくなってしまうだろう。
だから、どうせ浜百合高校に行って離れ離れになるのなら、さよならの代わりに、心残りのないように想いを伝えたい。