あの夏の続きを、今
やがて、合奏開始の時間になり、寺沢先生が音楽室に入ってきた。
部員たちが全員音出しをやめて、一斉に立ち上がる。
「よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
合奏開始のこの挨拶も、あと何回できるのだろうか。
礼をした後、部員たちは席に着き、寺沢先生が指揮棒を手に取る。
「じゃあ、課題曲からいくぞー」
そう言いながら先生が構えた指揮棒の先を見つめながら、私はトランペットを構える。
────タカタッタカタッタカタッタッ、パーンパパッパッパーーーン!!
最初のファンファーレが、一本の線となって響く────遥か彼方の水平線へ向かって。
特にこれといって注意されることもなく課題曲の合奏が終わると、次は自由曲の『じんじん』の合奏だ。
「いいか?何度も言ってるけど、『音で絵を描く』んだ。自分の音がどんな色で、何を描こうとしているのか。それだけで、聴く人に伝わるものはずいぶんと変わってくる」
そう言って寺沢先生は再び指揮棒を構える。
「そこは力強くって何度も言った。どうやったらこの期に及んでそんな可愛らしい音で吹こうという気が起きるんだ」
「ティンパニ、そこは主役じゃない。もっと音量を落とせ」
「いちいち1拍ずつアクセントつけなくていいから!何のために2分の2拍子の記号がついてると思ってるんだ」
次々と飛んでくる先生の指示の中に、ピッチだとかリズムだとか、そういった基本的なことはもはや出てこない。
今の私たちに求められているのは、『音で絵を描く』ための表現力だ。
初めてこの曲を聴いた時に自然と頭の中に思い浮かんだ、沖縄の青い海に白い砂浜、色とりどりの花や眩しい太陽。それらを描くために何をすればいいの考えなさい、といつも言われている。