あの夏の続きを、今


出欠が終わった後、トランペットパートはいつものように体育館の横に移動するため、荷物をまとめて準備する。


けれど私は、沈んだ気分のせいで、なかなか立ち上がろうという気分になれない。


「志帆、まだ気にしてるの?大丈夫だって!地区大会、ちゃんと突破できたんだから!ちょっとやそっと、ソロでミスしたぐらいで評価がガタ落ちなんてことはないって証明されたんだから!ね?」


そう話しかけてきたのはカリンだ。


「うん、分かってるよ。でも……あれからずっと、音が全然出ないんだ。県大会も近いのに、こんなんじゃソロも、自由曲の1stも、できないし……」


そう言いながら顔を上げると、ホワイトボードが視界に入る。


『県大会まであと 11 日!』


地区大会が終わった後、「県大会」に書き換えられたカウントダウンの字は、前よりもさらに大きく派手になり、いっそう気合いが入っているのを感じさせる。


「大丈夫だよ!志帆は上手いんだから!きっとすぐに元に戻るって!」


こんな状況でも相変わらずカリンはお気楽だ。


私は重い腰を持ち上げ、カリンの後に続いて音楽室を出る。


いよいよ夏本番となった屋外は気が滅入りそうなほどに蒸し暑い。


いつもの練習場所で、基礎練習をする。


今日こそはいい音が出てくれると信じたい────


次こそはいい音が出てくれるはずだ────


そう思っても、出る音は一向に良くなる気配がない。
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