あの夏の続きを、今
ロングトーンは何とか一つも音を外さずにできた。
次はスケールだ。普通のスケールと、『じんじん』で使われている「琉球音階」と「奄美音階」の練習。
音が高くなっていくにつれ、だんだんと唇が固くなっていくような感じがして、ついには音が出なくなってしまう。
────やっぱり、こうだ。
また、音が出なくなってしまう。
こんなんじゃ、トランペットなんかやってられるわけがない。
ましてや、ソロなんて────
私はトランペットを両手で強く握ったまま俯く。
もしかしたら、私、本当はトランペットに向いてないのかもしれない────そう思った。
唇の振動が直接音になる金管楽器は、歯並びや唇の形によって音がかなり違ってくる。
もしかしたら、私の口そのものが、トランペットに合っていないのかもしれない。
だから、高い音も苦手だし、こうして音が出なくなっているのかもしれない────
私は手にしたトランペットをじっと見つめる。
こんな状況じゃ、県大会でいい結果なんて出せやしない。
高校でも吹奏楽を続けたい、浜百合高校で全国大会を目指したいと思っていたけど、もう、私は浜百合高校に行くのを、いや、トランペットをやめるべきなのかもしれない。
浜百合高校以外で行きたいと思うのは東神高校ぐらいだから、東神に行って別の楽器をしようか?それとも、吹奏楽自体をやめて、別の部に入ろうか……?
気づけばずっと、そんな事ばかり考えていた。
もう一度楽器を構え、今度はソロの部分を吹いてみる。
────ラーラーラーーラー、たったったったーん、パパファッ…………
だめだ────やっぱり高い音が出ない。
もう、コンクールが終わったら、トランペットなんてやめてしまおうか。
そうすれば、もう悩まなくても、悲しまなくてもいいんだから。
────そう自分に言い聞かせても、気持ちは晴れないままだった。