あの夏の続きを、今
うまく練習もできないまま、午後からは合奏の時間が始まる。
いつも通り、軽くチューニングをして、課題曲の合奏を始める。
寺沢先生が細かいところをあれこれと指導して直していくのだが、最近は先生に指摘されるのは主に木管が中心で、私たちトランペットが捕まることはほとんどない。
今日も、トランペットには特にこれといった指摘は入らず、最後の通し合奏に入った。
「じゃあ、最初から通していくぞー」
そう言って指揮棒を構える寺沢先生。
────タカタッタカタッタカタッタッ、パーッパパッパッパーーーン!
私の左隣でカリンとアズサちゃんが奏でる1stの音は、以前とは比べ物にならないほど明るく輝かしく、はっきりとした音になっている。
右にいる2ndと3rdの後輩たちの音も、そんな2人の音を支えることのできるしっかりとした安定感のある音になってきている。
皆の奏でる音に、確かな成長を感じる。
────それに比べて私は………
相変わらず掠れてうまく出ない音に必死で力を込め、最初のファンファーレをどうにかやり過ごす。
……しかし、その後のメロディーの1番高い音がどうしても出ない。
私がどうしても上手く音を出せない箇所で、時折、寺沢先生がじっとこちらを見ているのを感じる。
────あの寺沢先生が、気づかないはずがない。
こんなにもひどい音になってしまっているのに、気づかないはずはない。
あの視線。先生は、きっと私の音の変化に気づいているのだろう。
そして、最後のソロ。
────ラーラーラーーラー、たったったったーん、パパファッ…………
────また、だめだった。
地区大会以来、1度もソロが成功したことはない。
だが、寺沢先生は無表情の視線をちらりと向けるだけで、何も言ってこない。
怒りもしないし、指摘もしない。
どう考えても気づいているはずなのに。
何も言われないから何も分からない。怒られないのは良いけど、私にとっては複雑な気分だった。