あの夏の続きを、今


結局、今日も満足のいく音は出せないまま、練習の時間は終わった。


楽器を片付けて、ため息をつきながら音楽室を出る。


午後の日差しと蝉の声の下、とぼとぼと自転車置き場に向かっていると、前の方から声が聞こえた。


「志帆〜、こっち来て〜」


声をかけたのは、先に音楽室を出て自転車置き場の屋根の下に集まって話していた、同じ学年の部員たちが数人。


私が声の元に寄っていくと、その中にいたハヅキが「志帆もこれ食べる?手出して〜」と言ってきた。


言われた通り右手を差し出すと、ハヅキは「はい、どーぞ」と言って、チョコを1粒、私の手の平に乗せた。


最近流行りの、溶けないチョコ。


私は「ありがとう」と言ってすぐにそれを口に運んだが、最近の辛さで食欲がなくなっているせいか、なかなか飲み込めなかった。


私がようやくチョコを飲み込むのとほぼ同時に「そういえばさ、今日って夏祭りだよね!」と、部員たちの一人が言う。


「あー、J小の近くの運動公園であるやつだっけ」「すっかり忘れてたね」「一緒に行かない?」「いいねー」と、皆も次々と口を開く。


「志帆も一緒に行かない?」と言いながら振り向いてきたのはハヅキだ。


「え、行きたいけど、でも………」


一瞬、返事に詰まってしまう。


「その、他の人と一緒に行く約束してるから…」


言い終わらないうちに、ハヅキが、「え、他の人って誰!?まさか先輩!?」と、目を輝かせながら身を乗り出してくる。


「いやいや、まさか〜、セイジに誘われたんだよ」


私がそう答えると、今度は皆が一斉に振り向く。


「え、福原と!?」「福原くんから誘ってきたの?」「やるじゃん、福原くん」「やっぱり噂は本当なんじゃない?」と、次々に言い寄られて私は戸惑ってしまう。


「えっと、その、その通り、セイジから誘われたんだけど、………ていうか、噂って何?」


「えー、聞いたことないの?最近、福原くんの態度がなんか変わったよね、もしかして志帆のこと好きなんじゃない?って噂になってるよ〜」と、ハヅキがすかさず返す。


「え〜、それはないってば〜」


そう言ってはみたものの、うまく言葉に力が入らない。
< 406 / 467 >

この作品をシェア

pagetop