あの夏の続きを、今

届かない空

【2016年 8月上旬】




『県大会まであと 8 日！』



音楽室のホワイトボードに書かれたカウントダウンの字が目に入って、胸の奥がずしん、と重くなる。


今日も朝から部活だ。


でも、きっと今日も望んだ音は出ないんだろう。


相変わらずあれから1度も、ソロは成功していないし、掠れたような音は日に日に酷くなっていくばかり。


沈んだ気持ちで、ケースから楽器を取り出し、先日のことを思い出して大きくため息をつく。



────まさか、こんなことになってしまうなんて。


こうなる予感が、全くなかったわけではないけれど、まさか本当にこうなってしまうなんて、絶対にないだろうと心の中で思っている自分がいた。


セイジが、私に告白するなんて。


別にセイジに対して恋愛感情なんてないし、私はずっと男友達だと思っていた。


だから、別に付き合うことなんて考えていないのに────


どうして、胸が苦しいんだろう。


どうして、心の奥が痛むんだろう。


私は松本先輩のことが好きなんだから、ちゃんと断らないと。


そう思っても、セイジを振る、と考えただけで、なぜだか怖くなってしまうのだ。


何かが、壊れてしまう予感がする。


これまで築いてきた何かが、消えてしまう、そんな気がしてしまう。


────今の私には、セイジの告白をきっぱり断ろうという決断をするだけの勇気がなかった。


セイジとは、もっと一緒にいたい。


この関係が、終わってしまうのが怖い。


そんな気持ちが、私の心を苦しめていた。