あの夏の続きを、今
どれくらい経っただろう。
遠くの方から、楽器の音が聞こえ始めた。
もう、練習再開の時間か。
だけど、私はとても皆の所に戻る気にはなれなかった。
ベンチに座ったまま、遥か遠くの空をぼんやりと眺める。
建物の向こうから、「パート練習始めるよー!みんな集まってー!」というカリンの声が聞こえてきても、私はこの場所から動かなかった。
トランペットがやりたい。だけど、トランペットなんてやめてしまいたい。
そんな葛藤を抱えたまま、私は一人俯く。
────これ以上、私のせいで皆に迷惑はかけられない。
私なんて、きっといない方がいい。今のこんなひどい音で参加したって、足手まといになるだけだ。
遠くから、「志帆ー?どこにいるのー?パート練習始めるよーー!」という声が聞こえてきても、私には立ち上がる気力一つ出なかった。
やがて、またカリンの声が聞こえてくる。
「カリン、志帆探しに行ってくるから、みんなで適当に練習しといて!」と言っているのが、わずかに聞き取れた。
私は座ったまま、これからどうしようかと考えながらしばらくぼーっとしていると、後ろからスタスタと芝生を踏む足音が近づいて来た。
「あっ、いた!志帆!」
その声と同時に、目の前に回り込んできたのはカリンだ。
「カリン…パート練習は大丈夫なの?」
「後輩ちゃん達なら、もうカリンがいなくても大丈夫だと思って!それよりも志帆が心配だから、来たんだよ」
カリンはそう言うと、私の隣にちょこんと座った。