あの夏の続きを、今
「志帆、音が出なくてずっと悩んでるんでしょ?」
カリンのその言葉に、私は無言でうなずく。
「カリン、何でも相談乗るからねっ」
「ありがとう、カリン」
そのまましばらく無言で二人空を眺めていると、ふいにカリンが口を開く。
「そういえばさ、全然関係ないんだけど、志帆、福原くんから告られたって本当?」
「え、な、なんで知ってるの!?」
「なんか、そういう噂が広まってるみたい。ハヅキから聞いたよ」
「なんでそんなにすぐ広まるの…」
私は半ば呆れつつも、噂の出処については特に問い詰めないことにした。
────それよりも、私には今、考えるべきことがある。
「カリン……私、自分がどうすればいいのか、分からないんだ」
「福原くんのこと?それとも、トランペットのこと?進路のこと?」
「……全部」
私はそう言って、ため息をつく。
「でも、志帆は松本先輩のことが好きなんでしょ?だったら、福原くんにはちゃんと、ごめんなさいって伝えればいいじゃん」
「うん…」
返事をしたところで、私はもう一度、胸の内にある自分の想いを見つめる。
だが、心に分厚い雨雲がかかっているようで、探ってみてもなかなか「本当の想い」に手が届かない。
────1年生のあの時からずっと、胸の内にあった、暖かい気持ち。
松本先輩を、大切に想う気持ち。
────今、悲しみの雲に覆われた心の中で、それがどこにあるのか、わからなくなっていた。
少しずつ薄れていく昔の記憶の中の先輩の姿を思い出そうとしても、それを覆い隠すようにセイジの姿が頭をよぎる。
「私……」
私は今の気持ちを、ありのままにこぼす。
「本当の気持ちが、わからないの。先輩への気持ちも、セイジへの気持ちも…」
カリンは黙ったまま、こちらを向いて話を聞いていた。