あの夏の続きを、今
「先輩のことを好きでいても、絶対に幸せにはなれないのは分かってる。それに、セイジのことだって傷つけたくないし、一緒にいたいし、大切なんだって、今更気づいたし……」
「……」
「私は、もうセイジと付き合ったほうが幸せなのかもしれないって思ったりもするの」
「そうなのね……ところで、進路のほうは、まだ迷ってるの?」
「少し前までは、もうほぼ浜百合に行くつもりで気持ちは固まってたのに、今、音が出せなくなって、また一から考え直しなんだ」
そう言いながら私は俯く。
風が少しだけ吹いて、足元の草の葉がひらひらと揺れる。
「トランペットがやりたい、全国大会に出たい、それは確かな思いなのに、もう自分はトランペットに向いてないと分かってしまって。かと言って、全てを諦めて東神に行く勇気もない」
私は足元に転がっている石を、つま先でそっと、トン、と突く。
コロコロと転がっていった石は、芝生の中に紛れて見えなくなってしまった。
「だけど、浜百合に行けば、先輩とはもう会えなくなってしまうし……先輩みたいな演奏もできるようにならないまま、お別れなんて嫌だし……」
そう行って瞬きをすると、ぽとり、と涙が一粒、楽器の上に零れ落ちる。
「もう、私は何をすればいいのか、何を選べばいいのか、全然分からない。────どれか一つだけ選ぶなんて、絶対に無理だよ……」
「そっか……志帆はカリンが思ってるより、ずっと辛い思いしてたんだね……」