あの夏の続きを、今
夕立に打たれて
【2016年 8月上旬】
────次の日。
『県大会まで あと 7 日!』
ふと目を離した隙にいつの間にか書き変えられていたカウントダウンの数字を横目に、今日も私は楽器ケースを開ける。
────2年半、ずっと一緒に頑張ってきた私のトランペット。
松本先輩のいた日々も、いなくなった日々も、全てを共にしてきた大切な楽器。
────手離したくない。
────諦めたくない。
この先、私がどんな選択をすることになるのか分からない。けれど、後悔だけはしたくない。
そう思いながら、楽器とマウスピースを取り出して空になったケースを閉じる。
持ち手の横で、アカリ先輩に貰ったうさぎのぬいぐるみのキーホルダーが揺れる。
私は自分の席に座ると、昨日のカリンの言葉を思い出しながら、そっとマウスピースを吹く。
この気持ちが晴れるまでは、今できることだけをやればいい。
そう自分に言い聞かせながら、マウスピースを楽器に付け、チューニングをする。
やっぱり今日も、良い音は出ない。
────このままでは終われない。
────例えこれが今の私にできる限界だったとしても、こんな音で満足なんてできる訳がない。
私たちが県大会で金賞を取れるかどうかも、中国大会に進めるかどうかも分からない。次の県大会が、中学最後の演奏になってしまうかもしれない。
だから、絶対に悔いのない演奏をしたい────
そのためには、以前のような音が出せないとだめなのだ。
お願い。早く、治って。
私の音、元に戻って。
そう願っても、ずっと音は掠れたままだし、高い音は出ない。
────どうにかしなきゃ、いけないんだ。
奏でる音が途切れる度、涙が溢れ出しそうになるのを必死に堪えて、ひたすら息を吹き込む。
心を覆う分厚い雨雲は、まだ晴れそうにない。