あの夏の続きを、今


────翌日。


「あの、寺沢先生、良いでしょうか」


開け放たれた音楽室の窓から降り注ぐ、シャンシャンシャンシャンという蝉の声と朝の陽射し。


出欠を取り終えた部員たちは、皆それぞれの練習場所へと散っていく。


そんな中、私は思い切って寺沢先生に話しかける。


「あぁ、広野か。どうした?」

「実は……」


最近音が出なくなっていること。改善の兆しが見られないこと。隠すことなく、先生に話した。

「それで、何かこう、良い方法はないでしょうか?」


すると、先生は腕組みしたまま、こう言った。


「そうか、俺は個人レベルでの上手い下手にはあまり言及しない主義だし、それぞれの出せる音の範囲で頑張って欲しいと思っていたから、これまで何も言ってこなかったんだが……

広野がそこまで気にしているのなら、この際俺からも言おう」


そして、一呼吸置いてから、先生は続ける。


「広野はな、頑張り過ぎなんだよ。常に努力を怠らない、一生懸命なのは良いことだが、吹き続ければどんどんバテてしまう。それが金管楽器ってもんだ。

だから、広野は手を抜くことを覚えろ。もう、広野の音は、俺の思い描いていたものを、遥かに超えているからな。

とにかく、今日からは、吹きすぎ厳禁だ。吹いてる時間よりも、休憩時間の確保に気を遣いなさい。それから、マウスピースを変えて、気分を変えてみるのもいいだろう」

「なるほど、分かりました。ありがとうございます!」
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