あの夏の続きを、今


私は早速準備室に行くと、棚から誰も使っていないトランペットのケースを下ろした。


古い学校の楽器の、独特の匂いに懐かしさを覚えながらケースを開け、マウスピースを取り出して型番を確認する。


私がいつも使っている物とは違う物だ。


私はそれを、自分の楽器についていた物と取り替えて、そっとチューニングのB♭を吹いてみる。



パァーーーーーーーーーン。



狭い室内に、音が反響する。


ほんの少しだけど、違う感触のする吹き心地。


これなら、いけるかも────


希望を胸に抱いて、私は準備室を出ると、いつもの練習場所へと向かう。


譜面台とチューナーを用意して、青い空に向かって音を伸ばす。


ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド。


一つ一つの音が、向かい側の壁に反響して、青空へと吸い込まれていく。


まだ、十分とは言えないけれど、昨日までの音とは全然違う。


深呼吸してから、そっと楽器を構えて、今度はスケール練習。


全力を出したくなる気持ちをぐっと抑えて、落ち着いて息を吐き出す。


伸びやかな音が、遠くへと飛んでいく。


この調子なら────なんだか、上手くいきそうな気がする。


今までの私は、「松本先輩のような音を出す」ことばかり考えていた。


けれど、今の私がすべきことは、「自分の音を出す」ことだ。


時にはつまづいたり、失敗したりしたって、それが私の音なのだ。


私は楽器を構えると、大きく息を吸う。




────ラーラーラーーラー、たったったったーん、パパパーン!




────できた!!


やっと、ソロができるようになった……!
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