あの夏の続きを、今


駆け上がっていった音の行方を追うように、私は澄みきった空を見上げる。


────これが、私の音なんだ。


私の、やりたかったことなんだ。


2年半という時を経て、私の周りはどんどん変わっていった。


そんな中で、私だけが、過去に囚われたままでいた。


───だけど、今、私の止まっていた時計の針は、ようやく動き出したのだ。


変わっていくものを受け入れ、自分がどんな音を奏でればいいのか。それがやっとわかった今、私の胸の内には、もはや一点の曇りもない。


あの空にはまだまだ届かないかもしれない。けれど、それでもいい。


私はもう一度、楽器を構えて、今度は「じんじん」の1フレーズを吹く。


私の理想の音にはまだ少し及ばないけれど、胸の内にある確固たる思いが、しっかりと音に乗って、辺りに広がっていくのを感じた。


私は、トランペットがやりたいんだから。


私自身の音を奏でることが、私の最大の楽しみなんだから。


そして────


不安の消え去った心の中で、「変わらないもの」が、はっきりと浮かび上がってくる。



忘れかけていた、確かな想い。


大切な人の面影。奏でる音。優しい声。


心の奥底から湧き上がってくる、暖かいこの感情。



再び顕になった「本当の気持ち」と、しっかり向き合う。


ならば、私の答えは────



もう、ひとつしかない。

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