あの夏の続きを、今
夏休みの校舎は静かだ。
誰もいない廊下で、遠くから聞こえる蝉の声をバックに、私の足音だけが反響する。
図書室の前に着くと、既にそこにはセイジがいた。
半屋外の廊下に差し込む木漏れ日の下で立っているセイジの元に駆け寄ると、いつもと同じように、「よっ、志帆」と声をかけられる。
私がセイジの隣に並んで立つと、言いたかったことを言う前に先にセイジが口を開いた。
「言いたいことは、もう分かってるから」
一瞬、驚く私を置いて、セイジは続ける。
「先輩、なんだろ?」
「……なんで知ってんの!?」
全てを見通していたセイジに私は驚いたが、それでも不思議と違和感は感じなかった。
私は取り直して、セイジに言う。
「うん。だから私は────セイジとは付き合えないって。それを言うために来たんだけどね。
でも、私は、セイジと、これからも仲良くしていたいの。恋愛感情はなくたって、セイジのことは大切に思ってるから。────わがままかな?」
木漏れ日に照らされたセイジは、まるで振られたとは思えないほど爽やかな顔で、私の言葉を聞いていた。そして、
「もちろん、俺が志帆を捨てるわけないじゃないか!俺たちは、幼なじみなんだからな」
「うん、その通りだね……ありがとう。なんか……うまく言えないけど……ごめんね」
「謝らなくたっていいだろ、志帆のバカ」
「あー!今バカって言ったー!バカは私より頭良いことを示してから言えってあれほどー!」
「やかましいなお前ー!全く、重い話始めたと思ったら急にいつもの調子に戻ってー」
「何よー!原因はそっちでしょー!」
いつの間にかお互いいつもと同じような口調になって、やっぱり、セイジはセイジだな、と思った。
中学3年生になって、少しずつ大人へと近づきつつあるセイジの姿。
それでも、変わらないものもあることに、私は安心した。
「それじゃ、私は家帰るけど……セイジは?」
「俺は、もう少しここで勉強していく。志帆と張り合えるぐらいに頭良くなりたいからな」
「何それ!あははは」
私は、セイジに「じゃあねー!」と手を振って、図書室を後にした。
後悔はしていない。
────後は、私のやり残したことを終えるだけだ。
私は校舎を出て、照りつける日差しの下をただ進んでいった。