あの夏の続きを、今
「広野さん……」
先輩がそう言って、沈黙が訪れる。
その瞬間、自分が今何をしたのか、冷静になって解ると急に恥ずかしくなって、「いえ!先輩!何でもありませんっ!今のは忘れてください!」と取り乱してしまう。
そんな私を制するように、先輩は口を開く。
「広野さん─────ありがとう。嬉しいよ、すごく」
はっきりと聞こえる先輩のその言葉にはっと目を見開くと、そこにはとびきり温かい、先輩の笑顔があった。
けれど、その次の言葉を待っていても、何も出てこないから、私は再び目を逸らしてしまう。
これで、全てが終わったんだ。そう思いながら。
自転車のハンドルを握り直して、私は言う。
「────こんな私のわがままのせいで、今までずっと迷惑をかけ続けてきました。でも、これが最後ですから。本当にごめんなさい」
すると、先輩は戸惑いつつも、その笑顔を崩さないまま答える。
「そんな……迷惑だなんて思ってないよ。その気持ちは有難いから…」
そこまで言ったところで、再び二人の間に沈黙が訪れる。
私は思い切って口を開く。
「あの、私、決めたんです。高校は浜百合を第一志望にするって。それに、こうして今、この気持ちを言ってしまったわけだし……
……だから、私が先輩に会うのは、これで最後にします。今日の演奏が、私の最後の────」
そこまで言ったところで、松本先輩が遮るように言った。
「────ううん、そんなことないよ」
その声に、私は再びはっとして、先輩の方に向き直る。