あの夏の続きを、今


「僕は────高校に好きな人がいるから。応えられなくて、ごめんね。だけど────」


私は息を呑んで、その続きを待つ。


「僕はこれからも、先輩として広野さんのことを応援してたいんだ。それに、僕の演奏も、これからも聴きに来てほしい。

僕は高校を卒業してもずっと音楽は続けるつもりだから、先輩の僕が言うのも何だけど、僕の成長も見てもらいたいからね」


「先輩……」


「だから、広野さんが浜百合高校に行ったら、こうして会うことはもうできなくなるかもしれないけれど……決してそれを終わりにはして欲しくないんだ。

それぞれ別の道に進んでも、僕らはかつて一緒に頑張ってきた訳だし、今もこうしてお互い刺激を受けながら頑張っているなら、尚更だよ」


「……!」



────気持ちを伝えたこの瞬間が、「永遠の別れ」になると思っていたのに。


想像していたのとは全く違う言葉に、思わず涙が零れそうになる。



「だからね、広野さんが高校生になってからも、吹奏楽を続けていたら、僕は演奏を聴きにいくからね」


「じゃ、じゃあ………私も、これからも先輩の演奏、聴きにいってもいいですか?」


涙を必死に堪えながら、震える声でそう言うと、先輩は、「もちろん!」と、今までに見せたことがないようなとびきりの笑顔で答えた。


「先輩、約束ですよ……!私は先輩に聴いてもらえるのを楽しみに、これからも音楽続けますから!」

「うん、約束だよ」


見上げた先輩の顔は、夕日に照らされて温かな色に輝いていた。


「それじゃあ、引き止めてても悪いので、私はこれで」

「明日、コンクール、頑張ってね!応援してるから」

「はい!ありがとうございます!それでは!」


私は大きく手を振って、先輩に背を向けると、自転車を目いっぱい漕ぎながら家へ続く坂道を再び登り始めた。
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