あの夏の続きを、今
チューニングを済ませてから、最後の通し練習。
緊張を抑えるように、無理やり息を吸い込んでは吐き出す。
1年生が吹くところは簡単なところばかりだけど、それでも、迫り来る不安は避けられない。
チューニングの時間が終わると、舞台裏に整列して出番を待つ。
薄暗い空間の向こう側から、ひとつ前の出番の学校の演奏が聞こえてくる。
私たちよりも、ずっと上手い演奏だ。
ますます緊張感が高まる。
どうしよう、緊張しすぎて息が吸えなかったら────そんなことばかり考えている。
「志帆、どうしよーーーーっ、緊張するーーーー」
カリンがそう言いながら私の制服の袖にしがみついて来た。
「ちょ、カリン、落ち着いて、舞台裏では静かにしないとっ」
という私も、本当は落ち着けないのだけど。
それに対して、私とカリンよりも少し前に並んでいる松本先輩の背中からは、一切そんなものは感じられない。
落ち着いていて、堂々としている。
3年生だから、何回もこのステージに立ってきて、きっともう余裕なんだろう。
その後ろ姿といい、普段のトランペットを吹く姿といい────なんだか、素敵だな、と思った。