あの夏の続きを、今
エピローグ 〜あの夏の続き〜
【2017年 6月】
「あ、あの……松本先輩!」
演奏会の全てのプログラムが終わり、ロビーへと出てきた松本先輩に、私は思い切って声をかける。
「広野さん!来てくれたんだ!」
松本先輩と会うのは、去年のコンクールの日以来、約1年ぶりとなる。
それでも、変わることのないその優しい笑顔に、私もつられて笑顔になる。
約束通り、またここで会うことができて、私はほっとした。
────あれから、私は晴れて浜百合高校に合格し、私は憧れていた浜百合高校吹奏楽部の一員となった。
今日は東神高校の定期演奏会で、松本先輩と舞先輩にとっては高校最後のステージとなる。
今日がちょうど部活が休みの日だった私は、あの日の約束を果たすため、この演奏会を見に来たのだ。
「広野さん、言うの遅いかもしれないけど、浜百合高校、合格おめでとう」
「いえいえ、どういたしまして!」
その時、私の後ろから、聞き覚えのある明るい声が飛んでくる。
「おーい!志帆ちゃーん!」
振り向くとそこには、舞先輩がいた。
「舞先輩じゃないですか!お久しぶりです!」
「えへへー、覚えててくれたんだね!嬉しいよ志帆ちゃん!それにしても浜百合の制服、よく似合ってるね」
「そ、そうですか?嬉しいです」
すると松本先輩が、「そういえば、今は寮に入ってるんだよね?そっちの生活はどう?」と聞いてくる。
「強豪校の吹部ですから、それなりに大変なこともありますけど、一人暮らしは楽しいですし、向こうで新しい友達いっぱいできたんで」
「そうか、それは良かった。高校生活ってあっという間だからね。しっかり楽しんでね」
「はいっ!」
「それじゃ、広野さん、これからも吹奏楽、頑張ってね!」
「応援してるよ、志帆ちゃん!」
「ありがとうございます!」
私は楽屋へと戻っていく松本先輩と舞先輩の背中をしばらく見送っていた。
────これで、松本先輩は東神高校吹奏楽部を引退する。
これから松本先輩がどんな進路に進むのかは分からないし、もしかしたら私がこうして松本先輩の演奏を聴きに行くことは、もう当分ないかもしれない。
けれど、松本先輩のことだから、何年経っても、どこに行っても、きっとどこかで何かしらの形で音楽を続けているだろう。
────二人並んだ背中が、通路の曲がり角の向こうへと消えていく。
名残惜しいけれど、私も背を向けて歩き出し、建物を出る。
いつまでもここに居ても、これ以上は何もないから。
寮に、帰らないと。