あの夏の続きを、今
その後も、先輩の指示で、繰り返し練習する音を5つ、6つ……と増やしていく。
そして、フレーズを全部吹けるようになったら、だんだんとメトロノームのテンポを上げていく。
そして、最後は、本来のテンポにかなり近い速さでも吹けるようになった。
私はフレーズの初めから終わりまで、途中で詰まることなく吹き終える。
「すごい!出来るようになってるじゃん!さすが広野さんだね」
あの優しい笑顔で先輩に褒められた私の心に、ぱっと光が差すような感じがした。
この瞬間が、なんだか好きだ。
私がうまく吹けると、松本先輩がこうして笑顔で褒めてくれる、この瞬間が。
先輩の笑顔には、やっぱり、不思議な魅力がある。
「なんだか、広野さんってすごく上達早いよね。初心者とは思えないぐらい。もしかして、どこかで習ってたとか?」
松本先輩にそう言われたので、私は、「そんなわけないですよ!」と首を振る。
「じゃあ、これは広野さんの才能?いや、実力かな?とにかく、広野さんには何かすごいものを感じるから、きっと、練習すれば信じられないくらい上手になると思うよ。僕なんて及ばないぐらいにね」
「そ、そんな……そこまで褒めなくてもいいですよ。全部、先輩のご指導のおかげですから」
「そう?それは照れるなぁ」
そう言って先輩は、ふふっ、と笑う。
その笑顔につられて、私も嬉しくなる。
「それでは、先輩、ありがとうございました!」
先輩にお礼を言ってから、個人練習の場所へと戻る。
そして、さっき教えてもらったフレーズを、もう1度吹く。
コツさえつかめば簡単だ。運指を間違えることなく、さらりと吹けた。