あの夏の続きを、今
雨傘と温もり
【2014年 7月上旬】
「おはようございまーす」
朝の7時半。朝練の始まる時間に音楽室のドアを開けると、そこにはたくさんの部員たち────
────は、いなかった。
「あ、おはよう、広野さん。びしょ濡れじゃん、この雨の中大変だったでしょ」
遠くからそう言ったのは、今来たばかりといった感じで荷物を下ろす松本先輩だった。
「先輩こそ…めっちゃ濡れてるじゃないですか」
朝起きた時からずっと降り続いている雨で濡れた先輩の髪からは水滴が落ち、制服のシャツはほんの少し透けている。
窓の外は、暗く曇った空に、止みそうにない雨。
学校に来る時はレインコートを着ていたとはいえ、こんな大雨ではフードなど意味をなさないし、自転車置き場からここに来るまでの間にもかなり濡れてしまう。
私は持ってきたタオルで髪を拭いてから、準備室に楽器を取りに行った。
今は期末テスト週間。テスト一週間前のテスト週間は部活が禁止になるが、強制でない自主参加型の朝練ならしてもいいことになっている。
吹奏楽部も、朝の自主練習がしたい部員のために音楽室が使えるのだが、私と松本先輩以外には誰も来ていないようだ。