あの夏の続きを、今
「じゃあ、ちょっと遠いけど、ついて来て。1年生の教室には近いから、大丈夫だよ」
私は先輩に案内され、校舎を出て、体育館の隣にある小さな建物に向かう。
その建物からは、綺麗な楽器の音色が聞こえてくる。
なんだか、この音が、私を呼んでいるみたいだ────
「これが別棟。ここの2階が、僕たち吹奏楽部の部室だよ」
その人の後について別棟の階段を上ると、音楽室のドアが開いて、楽器たちの音と共に、一人の女子生徒が飛び出してきた。
「もう、遅いよー!教室に楽譜取りに行くだけって言ってたのにー」
「ごめんごめん、ちょっと迷子の1年生を助けててね」
「あれ、この子は?誰?新入生?なんでここに?」
吹奏楽部員の一人らしき女子生徒は、私と「その人」を交互に見ながら聞いてくる。
「あぁ、この子、ちょっと怪我しちゃって、保健室が開いてなかったから、誰か絆創膏持ってないか聞こうと思って、連れて来た」
「えっ、その膝どうしたの!?血だらけじゃん!大丈夫!?ちょっと待っててね、誰か絆創膏持ってないか聞いてくるよ!」
女子生徒はそう言って、一旦音楽室の中に戻って行った。
しばらくして、「あったー!これ使って!」と言いながら、絆創膏を手に女子生徒が戻って来た。
彼女は私に絆創膏を手渡すと、私を案内してくれた「その人」に向かって、「これから合奏するから、早く早く!急いで!」と言う。
「その人」は「うん!じゃあね、部活見学ぜひ来てね!」と言いながら、慌てた様子ですぐに女子生徒の後に続いて音楽室に入っていった。
「あ、あの、ありが………」
言い終わらないうちに、その人の姿は音楽室のドアの向こうへと消えてしまった。
────お礼、言いたかったな……
名札があるのに名前をしっかり見てなかったけど、とりあえず顔はなんとなく覚えてるから、校内でまた会ったら気付くかもしれない。
あの人は眼鏡をかけてたから、私の頭の中では「眼鏡の人」と呼ぶことにした。